熊本の塾長が徹底解説!『風の谷のナウシカ』映画&漫画の徹底深掘り第5弾[念話の能力]|熊本の学習塾ブレイクスルー・アカデミー
こんにちは。熊本の教育&勉強攻略アドバイザー、ブレイクスルー・アカデミー代表の安東正治です。
今回も『風の谷のナウシカ』の本質に迫ってみたいと思います。映画にも漫画にも描かれている念話の能力(テレパス)についてです。ちなみに写真に採用したのは宮崎駿監督の1978年の作品『未来少年コナン』です。男版ナウシカと評されているため、参考として借りて観始めました。主人公コナンの声優さんは大山のぶ代さん版『ドラえもん』でのび太を演じていた小原乃梨子さん。時代は2008年7月に滅びた地球の20年後の世界であり、舞台は日本と言われています。
さて、話を戻しますと、ナウシカの世界では映画でも漫画でも念話の能力(テレパス)だけでなく、意識世界でのやりとりが描かれています。体から幽体離脱した意識のみが別の空間に飛んでいったり他の人の意識体とやりとりする描写です。これも旧人類が生み出した技術の1つかも知れませんが、しかし一方で誰もが持っている能力ではない点に不思議さがあります。
そこでまずはこの念話の能力(テレパス)を持つ人たちにクローズアップして、この能力とは一体何かについて言及していきたいと思います。なお今回は前回までの内容とはちょっと異なり、私自身の見解も含まれることになりますので、その点ご了承下さい。
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『風の谷のナウシカ』の基本その9:念話能力(テレパス)を持つ人物たち
まずはこの能力を持つ人たちをピックアップしていきます。彼らに共通していることは何だろうか、宮崎駿監督が彼らにその能力を授けた理由は何だろう。そういったことを観察していきたいと思っています。
ナウシカ
王蟲(オーム)
マニ族僧正さま(土鬼(ドルク)族長の一人)
神聖皇帝(皇弟)ミラルパ
※おそらく初代神聖皇帝も
チヤルカ(土鬼(ドルク)族長の一人)※ちょっとだけできる程度
森の人セルム
チクク(土王クルバルカ家の末裔)
上人(チククがいた場所でナウシカが出会った土着宗教信者の生き残り)
巨神兵(オーマ)
庭の主
墓所の主たち
この中で一人異質なのが神聖皇帝(皇弟)ミラルパです。彼は明確なまでに「闇」という存在でした。初代神聖皇帝も超常の能力の持ち主であったとされていますが、同じく闇属性だったのかどうかまでは描かれていません。他の人たちは純粋に念話ができるテレパスの能力だったことと比較しても、ミラルパはドロドロの闇として自身を幽体離脱して飛ばすことができる能力者です。
その闇に飲まれず、相反する「光」として描かれることの多かったナウシカですが、基本的な能力はテレパスのみでしたし、描写としてはナウシカ自身が「光」であるというよりも、光に守られている存在という感じです。時にはマニ族の僧正さまが、時にはテト(ナウシカの飼っていたキツネリス)が光となって闇からナウシカを護りました。
ただ、何度か強力な念力を使う場面もありましたね。ストーリー初期にはトルメキア第四皇女クシャナとの初顔合わせの際、蟲使いたちの蟲を吹き飛ばした場面です。酸の湖に進もうとする王蟲(オーム)たちを強力な念話だけで「来るな!!!」と引き止めた時の力も念力と言えば念力でしょう。つまりナウシカはナウシカで他にないレベルの念力を持ち合わせていたことになります。
『風の谷のナウシカ』の基本その10:念力とは何か
では実際にこの念話の能力(テレパス)、もっと本質的な「念力」とはどんな能力なのでしょうか。
狭義には先述したようなテレパシーでの会話ができる能力ですが、中には映像(ビジョン)まで共有できるほど強力なテレパスの持ち主もいます。それも鮮明に、顔を識別できるレベルで映像を共有できます。
また、広義にはやはり念力です。ナウシカのそれもそうですが、ミラルパの闇属性の幽体離脱も、単なるテレパスではありません。物理的に相手に影響を及ぼすことができる時点で念動力です。
テレパスだけで考えても、それを共有できる範囲にばらつきがありました。かつて土鬼(ドルク)を治めていた土王クルバルカ家の末裔チククは、幼いにも関わらず神がかり的にテレパスを使えました。かなりの範囲にビジョンを見せることもできたのです。クルバルカ家の王族たち皆がこの能力を有していたのか、チククだけに与えられたものかは分かりませんが、ナウシカを「使徒」と重ねて世界を導く者だと考えていました。
旧人類が残した技術の貯蔵庫として残された「庭」の主もまたテレパスを持っていました。それも相手の心の隙に取り入る器用な能力者でもあります。「庭」自体が外界から隔離された世界となっており、その結界自体がテレパスの延長的なもので作り出されたものなのかどうかは分かりません。結界が、主の能力なのか、その場所に元から張られている別の理由からくる結界なのかは明言できません。
この結界を抜けて入ってこれるだけの念力を持つのが森の人セルムです。彼は遠く離れた場所から意識だけを飛ばして結界を破り、ナウシカを助けに来ました。
ただ、森の人自身は元々は普通の人でした。300年前の大海嘯(だいかいしょう、王蟲たち蟲たちが押し寄せて全てを飲み込む大災害)の折、飲み込まれた古エフタル王国の生き残りが森に入ったことから「森の人」という人種は生まれています。つまりかなり最近生まれた種族なのです。そして人間とは本来300年程度では進化できません。つまり念力は「森の人」として受け継がれた能力と言うよりも、セルム自身に根ざした才能であると考えた方が良いかも知れません。
例えば最初から念話能力(テレパス)を有していると思われる王蟲(オーム)ですが、これも王蟲全体がテレパスを使えるのか、長老のような一部の有力な王蟲だけが使えるものなのかが不明瞭です。実際ナウシカと会話をしているのは決まった王蟲ですから、その限られた何体かの王蟲だけしか使えないのかも知れません。
もう少し踏み込むと、念話能力(テレパス)は相手の意識に入っていって会話を持ちかけたり、相手の言わんとしていることを理解できる能力だったりするので、相手がテレパスを持っていなくても、テレパスを持っている人とはテレパシーで会話できるということは分かっています。
それこそナウシカがチヤルカのテレパスを引き出したり、蟲たちの怒りや憎しみの感情に寄り添うことができるのは、ナウシカのテレパスの感受性が豊かだからです。アンテナを合わせなくても強烈な思念には気づけてしまうほど、テレパスの能力が高いと言えます。
『風の谷のナウシカ』の基本その11:宮崎駿監督の意図
では宮崎駿監督はなぜこのテレパスを登場人物たちに与えたのでしょうか。
実際先ほど挙げた者たちがテレパスを持っていたからこそ、この世界は最終的な落とし所にたどり着くことができました。ナウシカの世界では確かにたくさん人が死んだけれど、それでもテレパスのおかげで救われた命も多かった。ということはこのテレパスは「世界の救い」にとってキーになっているということです。
実際の歴史を紐解いていくと、2018年に世界遺産に登録された、世界最古の遺跡と呼ばれる「ギョベクリテぺ」では、日本の土偶のような人を模した石像が出土しているのですが、この像には意図的に「口」が施されていません。これはこの石像のモチーフとなった人物が「念話」を使っていたからではないかと言われています。
おそらく高校の世界史の授業では、世界の四大文明であるエジプト文明、メソポタミア文明、インダス文明、黄河文明が世界の最初の文明であると習うはずですが、今回ご紹介したギョベクリテぺはそれらよりも7000年も古い時代に建造された宗教遺跡とされているのです。その遺跡にテレパスを連想させる人型の像があったというのがとても興味深い。
それを考えると『風の谷のナウシカ』の世界がテレパシーで繋がれているのは不思議なリンク点です。なぜか。実はこのギョベクリテペ遺跡の発掘調査が開始されたのが1995年であり、『風の谷のナウシカ』は1982年に連載が開始していますから、宮崎駿監督はこのギョベクリテペの遺跡のこと自体は知らなかったと考えて自然かなと思います。だからこそ今読んで改めて「『風の谷のナウシカ』すげぇ!」となるわけです。
話を戻すと、例えばナウシカと偶然出会うことになるクルバルカ家末裔のチククですが、あの幼い子どもが一人あの場にいたということが不思議なことです。両親や大人たちが身近にいたものが、戦争の激化で離散してしまったが、最後まで僧正さまの側に残るという自らの意思によって孤立することになったのか、ちょっと判然としません。そしてナウシカと同じくらいにテレパスを使いこなしている。そしてナウシカはなぜか我が子とした巨神兵「オーマ」とチククを重ねます。
それこそ、ナウシカの世界に残る言い伝えに「その者青き衣を身にまといて金色の野に降り立つべし。失われし大地との絆を結び、ついに人々を青き清浄の地に導かん。」とありますが、その情景と、燃え盛る炎の中に降り立ち大地を蹂躙する巨神兵とは、場面的に対比となっていると考えられます。そしてナウシカを連想させるその青き衣の者は白い翼を持つ使徒であり、巨神兵も「光を帯びて空をおおい死を運ぶ、巨いなる兵の神(おおいなるつわもののかみ)。」とあるように翼を開き空を舞うわけです。
また、ナウシカと巨神兵をつなぐワード「光」。しかしナウシカたちにとっては巨神兵の光は「毒」なのです。でもナウシカは闇から「光」によって護られます。光によって護られるナウシカは、巨神兵の光には毒される。この不思議な矛盾も紐解く必要があります。
宮崎駿監督がテレパスによってナウシカの世界を調和に導くストーリーを描き、それがとある限定的な人物にのみ与えられ、彼らが最終的に旧人類の呪縛から真の意味で今の世界を救ったこの一連の流れは、「表裏一体」「全一同一」を壮大に表現した皮肉的な物語であるように感じます。
今日はここまでです。
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